ボサノヴァがきこえる夜
「人間は猿から進化したんじゃない、って考えもあるんだ。」
楽しそうにそんなことを話すおじさんはいつも髪の毛がボサボサで、いつのものだか分からないジャンパーを着て、帽子をかぶっていた。
仕込みでイライラしていたかもしれない朝でも、声を掛けるとふざけてくれた。
ギターでボッサを弾き語る歌声は意外にもすごく柔らかくて、「歌はあんまり」なんて照れながらもなんだかんだとポルトガル語で歌ってくれて。
仕事を辞めたら近所の子供を集めて、ギターを教えるジジイになりたいと話していた。
「いきなり曲なんか弾かなくていい、ひとつのコードを毎日鳴らせば、絶対に良い音がなる」
そんな風に教えてくれるこの人は、本当にギターを教えるジジイになるんだと私は思っていた。
大好きだった照明さんが、神様の元へ旅立ちました。こんなに身近に感じる死は初めてかもしれません。
しばらく実感が湧きませんでしたが、こうして思い出していくとどんどん寂しくなってきました。本当にもう会えないんだなと思うと、心の穴にびゅうびゅう風が吹き血管がスカスカになったような感覚がします。
きっと天国でもボッサを歌って、優しいギターをポロポロ弾いて。そこはやっぱり投光室より高いのでしょうか。冬のお空の星球は、坪井さんがつってんのかもしれないなぁ。
ロマンチックになっちゃうほど、ロマンチックな人だったんです。ご冥福をお祈りします。らぶ。